冠水による方法は、融雪出水でヤナギ類の種子定着(5月下旬~6月中旬に種子を散布するものが多い)を抑止することと、前年に定着したヤナギ類の稚樹が細粒分とともに流亡すること等が期待でき、樹林化抑制に繋がるものとして実施される。
冠水による対策は、融雪期・夏期ともに冠水日数が30日以上になると樹林化率は30%を下回っており、これが目安になると考えられる(川上ら 2022)。ただし、融雪期は20日~40日の範囲に有意差を認める境界値があったが夏季は見られなかった。
撹乱強度および撹乱発生頻度と樹林化率との関係(川上ら 2022) 図中のSGはセグメントを示す。撹乱強度のGL値は下図の撹乱境界の目安値の見方で示される黒の実線を示す。観測個所の平均年最大流量時の摩擦速度との比で、この値が1.5以上になると有意に樹林化が20%以下まで抑制されていた。また、撹乱発生頻度は3年に1度、GL値を超える値が発生していれば樹林化が20%以下まで抑制されていた。北海道の河道内の樹林化率の平均が35%程度(全国平均で25%程度)(水理公式集 2018)であることからも、十分抑制できているものと考えられる。
自然堤防帯(セグメント2-2)での掘削効果の維持(引き続き検討を要する課題)
冠水による対策のうち、勾配が緩く平均粒径も小さいセグメント2-2(SG2-2)では、SG1やSG1-2に比較して切り下げ箇所に土砂が堆積し易い(下図)。掘削後に堆積土砂が水面付近まで溜まると陸生植物の生育条件が整うため、場合によっては樹林化へと移行し易くなる(Oishiら 2018)。ただし、同じSG2-2であっても堆積厚や樹林化率は、掘削後の施工後年数にも依らないことも示唆されており、この対応策を含めどのような条件下で堆積し易いのか、樹林化し易いのかは引き続き検討を要する課題である。
施工後年数と堆積厚および樹林化率との関係(川上ら 2022) (施工後年数と堆積厚との関係) 平水位未満で掘削すると施工から10年経ても堆積厚は厚くなっていない。一方で平水位以上で掘削すると施工年数に関わらず堆積傾向にある。 (施工後年数と樹林化率との関係)堆積厚は施工後年数にも依らないうえ、樹林化率も施工後年数に依らない。
細粒分の堆積に関しては、例えば、武内ら(2011)によると、堆積厚は土砂堆積速度と比高(低水路と土砂堆積個所のとの差)との関係から、比高が1~6mの範囲では比高が大きいほど堆積速度が小さくなる傾向を示ている。末次(2001)らも冠水深が高いほど土砂堆積厚が厚くなる傾向にあることを示している。
以上から鑑みるに、切り下げ高さの設定の工夫は、掘削河道形状の長寿命化や樹林化抑制に影響している可能性が高い。
低水路からの比高と堆積高上昇速度との関係 低水路断面と高水敷断面の差が小さいほど細粒土砂の堆積速度が大きくなる。(武内ら2011)