考え方のフロー(掘削に伴う樹林化防止)

融雪出水や夏期出水を活用して樹林化を抑制するには、撹乱強度だけでなく周期的な撹乱が重要である(川上ら 2022)。これまで撹乱の強度については、摩擦速度や無次元掃流力によって樹林化抑制に至った例が紹介されている。しかし、数年もすると樹木の成長の方が勝ってやがて樹林化に至ることがほとんどである。一方で、撹乱頻度については、その重要性は認識されているものの、長期間のモニタリングが必要とされるためか報告事例がほとんどない。

樹林化抑制に係るガイドラインであげられたモニタリング河川では、撹乱対策によって樹林化の程度を分析した結果、3年に1回の頻度で河床の砂礫が十分に動くだけの摩擦力(以下に掲げる撹乱境界の目安ライン)が生じれば樹林化の抑制に寄与することがわかってきた(川上ら 2022)。

             撹乱強度および撹乱発生頻度と樹林化率との関係
図中のSGはセグメントを示す。撹乱強度のGL値(撹乱境界の目安ライン)は下図の撹乱境界の目安値の見方で示される黒の実線を示す。観測個所の平均年最大流量時の摩擦速度との比で、この値が1.5以上になると有意に樹林化が20%以下まで抑制されていた。また、撹乱発生頻度は3年に1回、GL値を超える値が発生していれば樹林化が20%未満で抑制されていた。北海道の河道内の樹林化率の平均が35%程度(全国平均で25%程度、水理公式集 2018)であることからも、十分抑制できる可能性が高い。

撹乱強度および撹乱発生頻度と樹林化率との関係 図中のSGはセグメントを示す。撹乱強度のGL値(撹乱境界の目安ライン)は下図の撹乱境界の目安値の見方で示される黒の実線を示す。観測個所の平均年最大流量時の摩擦速度との比で、この値が1.5以上になると有意に樹林化が20%以下まで抑制されていた。また、撹乱発生頻度は3年に1回、GL値を超える値が発生していれば樹林化が20%未満で抑制されていた。北海道の河道内の樹林化率の平均が35%程度(全国平均で25%程度、水理公式集 2018)であることからも、十分抑制できる可能性が高い。

撹乱境界の目安ラインとは?

攪乱境界の目安ラインは、樹林化抑制に係るガイドラインの中で示されている。対象個所の摩擦速度が撹乱境界の目安値よりも大きい場合は、河床が動くことで稚樹が飛ばされ樹林化が抑制され易く、これをもって河道整備の検討に利用されてきた背景がある。

               撹乱境界の目安値の見方
グラフ内のプロットは粒径の違い(セグメントの違い)を示す。赤は粒径3cm以上、青は粒径1-3㎝、黒がそれ以下である。

撹乱境界の目安値の見方 グラフ内のプロットは粒径の違い(セグメントの違い)を示す。赤は粒径3cm以上、青は粒径1-3㎝、黒がそれ以下である。

モニタリング河川を分析した結果では、設定された撹乱強度とほぼ同値か少し大きい程度で樹林化が抑えられ易くなること、また設定された撹乱強度と頻度(具体的には3年に1回程度)を組み合わせることで樹林化が抑えられることが示された。ただし、撹乱境界の考え方は陸化した砂州と樹木群の境界で設定されており、一般的に利用される摩擦速度(断面平均で算出する摩擦速度と撹乱境界地点の摩擦速度の違いの図を参照)の求め方とは異なる。今後、摩擦速度と攪乱強度との関係など、適切な閾値の設定と考え方についての整理が必要である。

撹乱境界の水理諸量についての説明図(ガイドライン)

撹乱境界の水理諸量についての説明図(ガイドライン

断面平均で算出する摩擦速度と撹乱境界地点の摩擦速度の違い(ガイドライン)

断面平均で算出する摩擦速度と撹乱境界地点の摩擦速度の違い(ガイドライン