種の分布は、気候帯によって特徴付けられる。広く分布する種であっても、適応の範囲は限られている(生態的最適域)。分布の中央に位置する生育箇所は、種のもつ成長戦略(生理的特性)に合致しており、その種にとって成長し易い条件と考えられる。一方で、分布の周辺ほど種にとって厳しい環境下で生存を強いられている。

ヤナギ類は一般的には河川に結びついたパイオニア的な性質をもっており、熱帯から暖帯の河川に生育する原始的ヤナギから、温帯から高山帯、北極圏までの広い地域に激しい温度変化や特殊な光条件に適応した真正ヤナギが分布を広げていった進化過程が考えられている(柳井ら 1991, 酒井 1984).

例えば、マルバヤナギ*(Salix chaenomeloides)*の分布は、関東以南に多い種だが同じ緯度にある中国大陸にも多く分布しており、暖かい地域を中心に位置する種と考えられる。また、北側あるいは南側ほど、分布が少なく生育が難しい環境下であることがわかる。北海道では、マルバヤナギが苫小牧地方でわずか見られるが、マルバヤナギの分布を考えるとその北限にあり生育に厳しい条件下にある。分布の周辺にある種は、生産性(代謝が落ちる)が低下する。生産性の低下は、伐採後の再萌芽にも影響すると考えられる。

マルバヤナギは、関東以南に多く分布する種で、世界をみても暖かくアジア中心に分布する種であることがわかる。

マルバヤナギは、関東以南に多く分布する種で、世界をみても暖かくアジア中心に分布する種であることがわかる。

北海道で多く生育するエゾノキヌヤナギ*(Salix schwerinii)*はマルバヤナギに比べて分布域が広く、北方を中心として生育している。したがって、先の例とは逆に日本の北ほどエゾノキヌヤナギの生育適域に近く種の成長戦略に合致しており、分布が拡大し易く、再萌芽性も高くなり易いと予想される。

エゾノキヌヤナギは、関東以北に多く分布する種で、世界と比較すると日本のこの種が南限に位置し分布している種であることがわかる。

エゾノキヌヤナギは、関東以北に多く分布する種で、世界と比較すると日本のこの種が南限に位置し分布している種であることがわかる。

以下のサイトで、北海道に生育するヤナギ類の分布域を確認できる。

伐採後の萌芽幹(萌芽枝)の萌芽力に関して、種の分布の関係性は十分に解明できているわけではないが(大石ら 2023)、種として整理するだけでなく地域別に見て、伐採や伐採後の萌芽刈り取りの効果で枯死に至り易いかなどを確認していくことが重要である。